舞台「猟銃」
中谷美紀の舞台「猟銃」を渋谷パルコ劇場にて観に行った。
とにかく圧巻だった。
全編中谷美紀。余すとこなく中谷美紀。中谷美紀ワールドの集大成。
一人芝居なのでもちろんずっと一人で喋ってるんだけど、「よく台詞間違えないよなあ」と感心した。当たり前のことすぎて恐縮である。しかし、これ普通じゃねえよ!常軌を逸してるよ!プレッシャー半端ねえよ!中谷美紀はバケモンクラスの大女優だった。と、ただただ圧巻だったわけです。
もう画面の絵力がすごい。アート作品を見ているような錯覚になった。「中谷美紀が立っている。」それだけでアートになっている凄さ。舞台もシンプルで、小道具もほとんど無く中谷美紀が立ってるだけなんすよ。それだけでアートになってるんです。さっきから同じこと何回も言ってるけど、そういうことだった。
3人の女性を一人三役で演じるという内容だった。3人の役が変わるごとに衣装を変え、3部構成になっていたのだけど、その役が変わる瞬間が凄かった。
一度も舞台袖に履けない。暗転も無し。
舞台って場面を変えたいとき、大抵暗転するじゃないすか、真っ暗にしている隙にセットを変えたり、着替えたりして準備してから仕切り直すじゃないですか。
それをせずに、舞台上で着替えるし、セットも変わるという。
その変わり方がすごかった。特に、3人目の役に転換するときの着物に着替えるシーン。着物に着替えながらもずーっと演技し続けるという。着物着るだけでも大変な作業なのに荒技すぎる。そして着物を着る姿がまるで花が咲くような美しさだった。
そして、舞台の装置がすごかった。冒頭は雨が降ってるような演出だったのだけど、「この雨は映像を流してるのかな」って思っていた。薄暗かったので、光の演出で雨に見える映像なのかと思っていたんだけど、本当に水を落としていた。最初のシーンは舞台上が水たまりになっていた。中谷美紀が歩くたびにバシャバシャと水が跳ねていた。
僕の中の常識では、舞台のステージ上に水たまりがあるという概念がなかったために、「え、この水このあとどうすんの?」という純粋な心配があった。このあとこの水の撤収作業ってどうすんだろう…とか、最初に水があるってことは、終りまで水があるってことだよね?だって片付けられないし…。
とか、思ってたら、2人目の役の転換で、水が舞台の後ろに流れていくではありませんか。水が無くなった…!?と動揺している隙も与えずに、中谷美紀は赤いドレスに着替え、別の人にガラリと変わっていたという。
そうやって、場面のチェンジがリアルタイムで暗転無しで変わる驚きがあった。
2人目で、水が無くなって、砂利がゴロゴロと残っていた。歩くたびにゴリゴリと石が音を立てていた。その砂利もですね…、次の転換で無くなるんですよ…。僕は水が無くなっただけで油断していた。まさか石まで無くなるとは思ってなかった。その石の無くなり方がダイナミックで。床の板が一枚ずつパカパカと開いて、ガシャーン!ガシャーン!と落とすという。
え?なにその装置!?下とかどうなってんの!?
水も砂利もキレイに無くなって、板の間のようになると、どこからともなく桐箱が現れて、そこから着物を取り出し、着物に着替えるという。
あの、僕、この桐箱がどこから現れたのか見逃したんすけど、どっから現れたんすかね…。上から降ってきたのかな…。
もうなんかね、魔法を見てる気分でしたよ。
そして、最後にカーテンコールが終わって、舞台袖にはけていく瞬間の安堵の素の笑顔を僕は見逃さなかった。あの笑顔可愛かったなあ。